シャントには次のような合併症の恐れがあります。
これら合併症は、知識として持っておく必要があります。
1.シャント閉塞
狭窄、動脈硬化のような病変がなくても大量の除水による血圧の低下・下痢等の脱水・長時間の圧迫が原因となって閉塞します。早期閉塞であれば当院では造影剤を使用しないエコーでPTAを行い、シャント血流を戻すことも可能です。
2.シャント狭窄(きょうさく)
狭窄とは血管が細くなることを言います。
原因はたくさんあります。静脈弁による狭窄、内膜肥厚(ないまくひこう)による狭窄、血栓による狭窄、シャント吻合部の狭窄、人工血管と自己静脈の吻合部の狭窄などがあげられます。
内膜肥厚とは動脈の高い圧力の血液が静脈に流れ込むことにより、静脈内側の膜が傷つき厚みが増して内腔が細くなります。
いずれの狭窄も透析ができない原因の場合は、PTA(風船つきの管)で治すことがファーストチョイスです。当院では全例エコーのみでのPTAをしております。
左はPTA前、右はPTA後です。(同スケール)
鎖骨下静脈の狭窄(鎖骨の下あたり)により透析後にシャント側の腕全体が腫(は)れること(静脈高血圧)があり、PTAで広げる必要がある場合があります。
3.シャント瘤(りゅう)
シャント瘤には2種類あります。一つは穿刺をすることでできる穿刺部瘤ともう一つはシャント吻合部にできる吻合部瘤(ふんごうぶりゅう)です。どの瘤もシャント急速に大きくなった場合、青紫色に変色した場合、あるいは感染した場合は止血が困難となり破裂することがあります。
写真はタバチエといって、手首と親指の間にあるシャント瘤です。ほとんどは橈骨神経(親指)が関係しており、しびれや、痛み(神経痛)を伴っていることがあり、この場合、手術でシャント瘤を取り除きその少し中枢(手首と肘の間でできる限り手首に近い場所)でシャント作製します。同時にする場合と別の日に2回に分けて(まず、シャント作製(1h以内)、その後、シャント瘤摘出(2h))手術(二期的)をすることがあります。これは時間がかかるので患者様の体力的なことも考慮しております。
術後合併症に多いのは一時的なしびれです。ほとんどは消失しますが、長い間圧迫された神経の場合は治らない場合がありますので手術をする場合は症状が出始めた場合は早いほうがいいこともあります。
左の写真がシャント瘤手術前、右の写真が手術後です。(当院施行例)
4.スチール症候群
シャント血流が多くなると、指先に血液が流れず、冷たく・白くなり、痛みを感じます。透析時や夜間に強くなります。進行した場合指先が腐ってくることがあります。
動脈硬化が強い場合や手術時の動静脈の吻合径が大きい場合にも起こります。
5.静脈高血圧(シャット静脈高血圧)
シャント側の腕全体また一部が腫れてくることを静脈高血圧症と言います。シャントより遠く、心臓に近い場所が狭窄してシャントの流れが心臓に戻らず、逆流しうっ血している状態(胸部に浅い場所の静脈が浮き出る写真左)です。閉塞する前に対処する必要があります。
6.感染
透析終了後に穿刺部に痛み・赤み・腫れ・膿があることで気付きます。進行すると全身感染を起こすことがあるので抗生剤投与を行い、治療をします。また、グラフト感染の場合はグラフト一部を抜去するか全部取り除く必要がある場合があります。
患者様本人ができること
シャントはできる限り長持ちさせるため、シャント部は、清潔に保ち、穿刺する前に穿刺する腕を石鹸で洗うことも予防になります。また、透析日の入浴は避けるなど感染を引き起こさないように気を付けることが必要です。
実は穿刺部位を透析のたびに少しずつ(毎回5mm)ずらしてもらうことがシャントを長持ちさせる最大のポイントとも言われております。
透析がない日、1日1回はシャントを自分の手で触れて確かめる習慣をつけましょう。